平成29年4月十三会例会

●例 会 内 容

日 時:平成29年4月12日(水)19:00〜21:00
会 場::コルテーヌ


●講 演 
そうだったのか!「憲法改正」

●講 師 なかま法律事務所 代表弁護士 中間 貴志氏
        美しい日本の憲法を作る鹿児島県民の会運営委員


講 演 内 容

 そもそも憲法とは何であり、日本国憲法がどのような経緯で成立したのか?…私たちも小中高校の社会科で学んで知っているつもりで知らなかったこと、理解していなかったこと、様々なことに気づかされました。なぜ今、憲法改正が必要なのか、中間先生に自説を語ってもらいました。

・憲法とは何か
 憲法とは国家の統治の基本を定めた法です。法律は憲法に、政令・省令は法律に違反しない内容でなければなりません。日本国憲法にも98条に「この憲法は国の最高法規である」と規定されています。
 憲法は、絶対王政の時代だったヨーロッパで、市民の権利・人権を守る目的で作られたものでした。憲法によって国家権力の行使に歯止めをかけ、国家権力の気まぐれな行使を防止する。これが「立憲主義」という考え方です。
 しかし、資本主義による貧富の差が広がった現在では、憲法25条に生存権の規定があるように、国家は給付的行政や社会福祉、社会保障の向上に努めなければならないという考え方も加味されています。また、国防や災害救助などのように、国家や行政にしかなし得ない事業もあり、国家は国民に積極的にサービスをする責任がある。立憲主義には国家権力から市民を守るという古典的な意味から、国家があることによって市民の人権も守られるという側面も加味して変容しているといえます。

・日本の国柄と明治憲法
 日本と世界の歴史を紐解くと、日本の歴史の長さが際立っています。ヨーロッパや中国の王朝が数多く様変わりしているのと大きく異なっています。
 聖徳太子が十七条の憲法で「和を以って貴しと為す」、明治天皇が五箇条の御誓文で「広く会議を興し万機公論に決すべし」と述べているように、日本は調和を重んじて話し合いによる政治を行ってきた歴史があります。古来民主的要素が強く、天皇の統治は国民と対立するものではなかったといえます。
 平安時代の摂関政治に始まり、武家政治を通じ、現代に至るまで天皇は政治的権力を行使せず、「権威」だけがあるという立憲君主制類似の体制を中世から行っていたという点で、近代ヨーロッパに引けを取らない文明を持っていたといえます。明治憲法下でも、実際は現在の象徴天皇制とほとんど同じで独断で実権を行使することはできませんでした。
 明治憲法は、開国にあたって日本を列強国に負けない文明国としての体制を作ることに力点があり、ヨーロッパのような革命的な要素はなく、民が抑圧されていたから憲法ができたというヨーロッパ的なものとは異なっています。

・現憲法の成立上の問題点
 現在の日本国憲法は戦後の日本を統治したGHQが1週間で草案を起草したものとされています。
現憲法の問題点を挙げてみましょう。
 GHQによる憲法改正の押し付けは国際法違反の疑いがあります。ハーグ陸戦法規に国の主権者が占領者の手に移っても、絶対的な支障がない限り、占領地の現行法を尊重しなければならない規定があり、このことに明確に違反しているといえます。
 GHQの統治下では、あらゆる言論がGHQの検閲下にあり、新憲法について否定的な議論をすることができませんでした。GHQが憲法を起草していること自体、国民は知らされておらず、改正過程において民主主義的基礎を欠いていました。
 そこまでしてGHQが憲法を変えたかったのは、神風特攻に代表されるような日本軍の戦いぶりがアメリカ人には理解不能で、心底日本は手強い国だから、二度とアメリカに刃向かうことがないようにしようと考えた。本土爆撃、原爆投下で徹底的に破壊し、終戦時に武装解除し、非武装を維持することにした。それが憲法9条の2項、戦力の放棄、交戦権の否認につながってくるのです。
 しかし朝鮮戦争の勃発で、アメリカは日本を非武装にしたことが間違いだったことに気づきます。中国・ソ連・北朝鮮とアメリカ・韓国の対立の中で、共産主義の波をとどめるために日本の独立と同盟が必要である。進駐軍が朝鮮半島への前進と同時に日本国内に軍事的空白が生まれることを懸念し、1952年に警察予備隊が発足。54年の自衛隊発足へとつながっていきます。
 9条2項はアメリカの都合で作られ、アメリカの都合でもう死文化しているようなものであり、有名無実化しているのではないかというのが私の意見です。

・「9条」の問題点
 「国防」は自国の主権と人権を守るためにあるものです。外交は、交渉だけでなく、自国の独立を守る軍事力を背景に進められるものです。9条の1項にあるような軍事力を侵略に用いないという「平和主義」は日本だけでなく、今や世界の多くの憲法に書かれています。
 しかし、軍隊を持たないと規定しているのは日本だけです。それは、前述したようにアメリカによる日本のペナルティー的なものでした。国防は国家が外国の支配下に落ちないために、自国の主権・自由・人権を守るためにある。これが世界の常識であり、多数の国の憲法にもそのことが謳われています。
 国を守ることは、主権を守ることです。主権を守ることとは、他国に隷属せず、日本のことを日本国民自身が決められるということです。主権の守ることは、人権の根本を守ることといえます。国家がなければ人権が守れないという、現代の立憲主義の考え方にも通じてきます。国防・軍隊は主権を守るために必要欠くべからざるインフラであるといえます。

 現在の自衛隊に関しても、9条だけでなく憲法のどこにも規定がないことで様々な問題があります。
 国家権力の暴走を防ぐという意味での立憲主義的にも問題があります。
 位置づけがあいまいで、自衛隊が日本国民にとって、世界にとって本当に必要な活動ができない。9条2項の関係で国内法上は「軍隊」でなく、自衛のための必要最小限度の「実力」とされています。
 自衛官が軍人でないとすると、武力衝突で自衛官が敵国に身柄を取られた際に、国際法上保護されるはずの捕虜としての保護を受けられず、単なる殺人犯として罰せられることになり、自衛官にはきわめて酷なことです。
 自衛隊は警察の延長で「比例原則=相手の力に合わせて手加減する」の適用があるので、武器使用に制限があり、前線では自衛官に必然的に犠牲が出ることになります。
 9条2項を改正し、自衛隊を「軍隊」として正面から規定する必要があると私たちは訴えています。

・緊急事態条項
 戦争や大災害などの緊急事態が発生し、国家の存立そのものが脅かされる場合に、憲法上の原則を一旦停止し、執行権力(行政府)に権力を集中させて、緊急事態を克服し安全と平和を回復するためにおかれる憲法の規定を「緊急事態条項」といいます。
 東日本大震災や、いずれ起こるとされている「南海トラフ地震」などの大災害では、道路、鉄道、通信網、自治体役所…あらゆるインフラが破壊され通常の行政が機能不全に陥る可能性があります。その際に憲法の保障する財産権などの人権を一時的に制限したり、緊急の政令を政府が発して対処する必要がありますが、現憲法にはその仕組みがありません。この25年で世界では103カ国で新しい憲法が制定されましたが、その全ての憲法に緊急事態条項が組み込まれています。緊急事態条項を憲法に規定することは、今や世界の常識です。
 本当に国家存亡の事態が起こった時には、できるだけ多くの国民を救うために、どうしても誰かの人権を制限する必要が出てきます。例えば、倒壊した食料、燃料倉庫から、管理者の承諾なく、警察、消防、自衛隊が物資を搬出して配給することなどです。そのほか法律で想定していない状況に対処する必要もありうるのです。
 現憲法に緊急事態条項がないのは、アメリカが作ったため、英米法体系の考え方に依っているからです。英米法では憲法に書いていないことは「やって良いこと」と考えるので、非常時にはフリーハンドで権限を行使できるという考え方です。
 しかし、緊急条項なしで超法規的措置として憲法を無視する措置をとることは、それ自体憲法の破壊になります。緊急事態条項を想定して国会の承認を事後的にでも得なければならないといった歯止めをしておかないと、憲法の破壊は際限なく進み、緊急事態を契機とした独裁を許す危険があります。
 緊急事態条項は、憲法自体を無制限の破壊から守る防波堤のようなものです。その意味でもこれを欠いている現憲法は欠陥があるといえます。東日本大震災のみならず、身近な熊本でも大震災が発生した今日、必要な備えとして緊急事態条項についても、速やかに改正が望まれると私は考えています。