平成29年2月十三会例会

●例 会 内 容

  日 時:2017年2月13日(月)PM7:30


●講 演

弁護士の役割〜中小企業こそ弁護士を使いこなそう!〜

●講 師
泉 武臣氏(弁護士)
【プロフィール】
鹿児島市出身。甲南高、九州大法学部を経て、04年に司法試験合格。06年に福岡県弁護士会に登録。10年に郷里の鹿児島市に戻る。鹿児島総合法律事務所所属。「町の弁護士」として様々な事案に取り組む。


講 演 内 容

 日々生活する中で、「弁護士」や「裁判」に関わることはそうないといっても過言ではありません。かなうものなら関わらずにすむ人生はそれだけでも幸いとさえ思えます。
とはいえ、社会で生きていく上では多かれ少なかれ、他者と関わっていく必要があり、ときにそれが予期せぬトラブルを引き起こすこともあります。
それらを解決する手段の一つとして、我々の社会には「法律」があります。法曹界とよばれる業界の中で、最も我々中小企業にとっても身近なところにいるのが弁護士であるといえるでしょう。今回の講演では会員でもある泉先生から「弁護士とは何か」「中小企業の人間が弁護士と関わるとしたらどんなケースが考えられるか」など、基本的なことから学ぶことができました。
関わらずにすむものならそうしたいけど、知ってしまったからには最低限必要な知識を身に着け、まさかのときには上手に弁護士を活用して企業経営にも役立てたい。そんなことを考えさせられた講演でした。

◎登録番号34009番
 「つかみ」で弁護士バッジの話をします。このバッジは弁護士になったときに日弁連からもらうものです。金メッキの純銀製で、年数がたつほどにメッキが剥げて「いぶし銀」の色になっていきます。バッジを見ればその人のキャリアが分かり、僕もそうなるために今日々頑張っています。
 僕のバッジの裏には「34009」という番号があります。戦後の弁護士制度ができてから、弁護士になった人、順番に割り振られる固有のもので、僕は日本で34009番目の弁護士ということになります。
 このバッジをつけていれば、警察の留置所や拘置所など、フリーパスで入れる場所があります。僕が以前働いていた福岡の拘置所などは、弁護士であればバッジを見せればすぐに入れますが、一般の人は、誰に会いに行くのか、どういう目的で会うのかなどいろいろ聞かれることになります。このバッジはそれなりの身分を証明するものであり、なくしたら大変で、もし紛失した場合は弁護士名簿にその旨を記載し、官報に公告しなければならないなど、厳格な手続きがあることがウィキベテアにも載っています。
 大学卒業後、苦節○年を経て、04年に司法試験に合格。1年半の研修の後、06年に大学時代を過ごした福岡で弁護士になりました。4年後の10年に、父と祖母が他界したこともひとつのきっかけになり、郷里の鹿児島に帰り、今の弁護士事務所に登録替えをして現在に至っています。基本的には何でもやる事務所で、中小企業の相談や訴訟、自治体の代理人なども引き受けることがあります。県内で大崎事件という再審請求事件がありますが、その中の弁護団にも入っており、その中で「再審請求における証拠開示はどうあるべきか」を担当しています。

◎思考法は「三段論法」
 「弁護士を使いこなす」ための前提として、我々法律家が普段どんな思考でものを考えるかを説明します。
 我々が日ごろ使う思考法は「三段論法」と呼ばれるものです。Aという大前提があり、Bという小前提があり、Cという結論に至る。「A=B、B=C、ならばA=C」という考え方です。
 例えばA「十三会は真面目な政治経済研究グループだ」という大前提があり、B「白尾昭彦氏は十三会の会員だ」という小前提があり、C「白尾会長は真面目に政治経済を考えている人である」という結論になるということです。
 Aの大前提とCの結論は共通認識として持っていないと、会話が成り立たないと考えるのが法律家の発想です。法律家が争う紛争はBの小前提=事実がどうかということを争うことになるのです。
 法律家にとっての大前提は法律です。企業の就業規則、人同士の約束事や、企業同士の契約などもこれに当たります。これらを大前提とした上で、小前提の事実が法律や取り決めに合致しているかどうかが、カギになってきます。

 AさんがBさんに貸したお金を返すという例で法的な三段論法を説明しましょう。
 お金の貸し借りに関する法令としては、民法の587条に金銭消費貸借の要件として@返還の合意A合意に基づく引き渡しがあるという条文があります。これが大前提になります。
 AさんはBさんに対して@とAがあるという具体的事実=小前提がある。ならば、AさんはBさんに貸したものを返せという権利、法律上の効果があるという結論になるというわけです。
 実際に裁判で争われる場合、Aさんは@として契約書、AとしてBさんからの領収書、Aさんからの振り込み指示書などを証拠として挙げて、@、Aの要件がそろっていることを立証しなければなりません。
 反対にBさんは@に関しては署名が偽造、または脅迫されて書いたので自由意志ではないことを、録音などを証拠として主張するかもしれません。Aに関して、確かに振り込みはあるが、それは自分が前に貸したお金の返済だということで、BさんがAさんと交わした契約書を証拠として主張することも考えられます。あるいは「実際に貸し借りはあったけど、10年以上経っているので無効である」というかもしれません。それに対してAさんは「5年前に一度振り込みがあったので返済の意思があった」と再反論する。
 このように裁判は、請求しているAさんの側に@Aの要件があるのか、ないのか、反論するBさんの側の言い分に要件があるのかないのかを争う場だということです。

 中小企業にも関係がある民事の例としては時間外労働賃金の支払いを挙げておきましょう。こちらは労働基準法37条第1項に時間外労働請求権に関する規定があります。
 労働者側がこれを請求する際には@雇用契約の締結A使用者が労働者の労働時間を延長B労働者が使用者に対しAに基づき労務を提供C賃金支払い日に到達したという4つの要件がそろった場合に、時間外労働賃金を請求することができます。
 これに対して会社側は「雇用契約ではなく委託契約である」と主張するかもしれません。「使用者が延長させたわけでなく、労働者が勝手に残った」という反論も考えられます。労働者が支払い義務のない管理人や監督者であることもあります。仮に権利があったとしても時効であるという主張する場合もあるでしょう。

 裁判官、検察官、弁護士で成り立つ法曹界は、大前提と結論、法律上の要件と効果の存在を共通認識としたもの同士が、その土俵で戦いましょうという世界です。中小企業との関係でいえば、民法、商法、労働関係法令など中小企業に関わる法律上に関する要件と効果に対するアドバイスができます。他の士業と異なるのは、裁判まで見通したアドバイスができるのが強みということです。

◎弁護士の仕事
 勤務態度に問題のある社員を解雇したいという依頼を受けた場合を例に、弁護士がどんな作業をするか説明しましょう。
 依頼者、相談者が望む効果が生まれる法令や合意があるかどうか、民法626条、労働契約法16条、就業規則、雇用契約、過去の裁判例などに照らし合わせます。その要件を満たす事実があるかどうか、事情聴取と裏付け証拠を集めて、どれが使えるかを法的に判断します。最終的には、懲戒解雇にしたいところだけど、後で問題を大きくしないために普通解雇にした方が無難ですよというようなアドバイスをするのが仕事になります。
 弁護士の仕事内容を紹介すると次のようになります。
・法律相談→各種相談
・民事事件→訴訟、調停、交渉、契約締結交渉、境界、民事保全・執行、倒産・再生、任意整理、行政審査請求・異議申し立てなど
・刑事事件→被疑者弁護・被告人弁護、再審請求、保釈、拘留の執行停止、抗告、告訴・告発、少年事件
・家事事件→離婚、婚姻費用、養育費、面会交流、遺産分割、遺言、家事審判、後見、財産管理
・契約書作成、内容証明郵便作成、遺言書作成、遺言執行
会社設立、株主総会指導
・顧問

 弁護士の費用として必要なものを、挙げてみましょう。
 継続的な紛争、例えば交渉、調停、訴訟などが長期にわたり結果が出るものに関しては「着手金」をいただきます。裁判は勝つか負けるか分かりません。負ければ報酬はゼロになってしまうことも考えられますから、着手金は最初にいただく「ファイトマネー」のようなものです。
 裁判を経て、勝利すれば得られた経済的利益の中から算定して「報酬」を得ます。訴えた側が勝利すれば当然報酬を要求しますが、訴えられた側の弁護について請求された額よりも減額させることができれば、その場合も報酬をいただくことになっています。
 このほか郵便料金、印紙代、交通費、印刷代などの「実費」、弁護士の名前で文書を作成した時などに得られる「手数料」、遠方に調査に出かけるときなどは「日当」、会社と顧問契約をしていれば「顧問料」などがあります。
 額について、以前は日弁連が統一基準を定めていて、全国どこでも一律でしたが、10年ほど前に公正取引委員会から是正を受けて、今は各事務所が自由に設定していいことになっています。
 対象となる権利の価格が300万円以内なら、着手金は8%、報酬は16%、300−3000万円なら着手金5%、報酬10%などが一応の基準になっていますが、事案に応じて依頼者と相談して決めるということにうちの事務所も決めています。

◎中小企業と弁護士
 中小企業と弁護士が関わるケースとしては次のような事例が考えられます。
・株主総会・取締役会の招集手続き、運営について
・株主名簿、株式譲渡手続(承認請求、買取請求、相続など)
・創業時(知財=特許、意匠の権利化、営業秘密など)他社の権利の侵害(商標、サービス名、競業避止など)
・消費者との取引の注意点(特商法、割販法、消費者契約法など)
・広告についての景品表示法など
・契約書問題
 経営をしていれば、従業員、顧客、取引先…様々な相手がいて、それぞれの活動を法律が規定しています。
 紛争が起こった際に、弁護士はまず「何が問題であるか」という「大前提」を確認し、次に依頼者はどういう「効果」を得たいと思っているのかを共通認識として持ち、そこに当てはまる事実があるのかどうかを裏付け、検証を繰り返す作業を通じて解決に導いていきます。
 顧問弁護士に関しては、売掛金が焦げついたとき事前にできることはなかったか、問題がある従業員にどう対処するか、そのために就業規則の点検は必要ないか、取引先からの要望については飲むしかないか、それとも何か落としどころがあるのか、などなど、顧問契約を結ぶことによって、法律的なアドバイスを日常受けることができます。