平成28年6月十三会例会

●例 会 内 容

  日 時:2016年6月13日(月) PM7:30    会場:県歯科医師会館


●講 演

中小企業運営に役立つ雇用助成金活用

●講 師
児玉 里美 氏(エス労務管理事務所 社会保険労務士 代表)
【プロフィール】
鹿児島の女性社労士事務所
お客様の気持ちに寄り添った問題解決を提案し、安心と充実の職場環境を創造します。
九州大学卒業後、地元の学習塾で小中学生に国語の受験指導を行う。
その後、社会保険労務士事務所に入社し、5年間実務に携わる。事務所在籍中に社会保険労務士合格。
社労士事務所退職後、鹿児島労働局にて助成金申請事務や、雇用均等指導員として県内事業所への指導アドバイスを行う。
平成27年、社労士事務所を独立開業。
現在は、創業支援、助成金アドバイス、労務管理、セミナー講演などを行っている。
働き続ける中で、経営者も従業員も様々な悩みを抱えることを知り、誰もが働きがいのある職場作りを目指している。


講 演 内 容

今回は助成金の活用術について、社労士の児玉先生からお話をいただきました。助成金の基本的な知識から、近年の助成金事情などを教わり、主旨目的を明確にして活用すれば、経営の安定、職場環境の改善、従業員との信頼関係構築など大いに役立つことが分かりました。また女性社労士の講演ということで、女性のオブザーバー参加も多く、例会、懇親会とも大いに盛り上がった例会となりました。

 大学卒業後、塾講師、社労士・行政書士事務所事務所、労働局勤務などを経て、4年前に社労士の資格を取り、昨年事務所を開業しました。仕事柄いろんな経営者の方にお会いして話が聞けるのが楽しく、勉強になることが多いです。いろんな職場を経験した中で職場には多くの悩みや問題があることを知り、誰もが働き甲斐のある職場づくりを目指して仕事をしています。
 社労士にもいろいろな得意分野がありますが、私は労働局で助成金の申請を受け付ける仕事をしていましたので、どう申請するか、誰に話をすれば申請が通りやすいかなど、内部事情も知っているので、助成金に関するアドバイスを得意分野にしています。

・助成金の種類
 助成金には経産省系、厚労省系、市町村・財団・企業など様々な種類があります。社労士が扱うのは厚労省系の助成金で、「雇用」や「従業員」に関するものがメーンになります。助成金は返済不用のお金であり、要件を満たすことができれば、どんな会社でも平等に受給することができます。
助成金というともらうことが恐れ多いと考える人も多いです。これらは国の施策を実現するために支給するものです。「従業員を雇い入れたい」「職場環境を整備したい」「人材育成をしたい」など目的がはっきりして、所定の条件、手続きをすれば「国にとって良いことをしているしっかりした会社である」ことの証なので、堂々と申請して受給してください。
しかし、「お金がある」ということは諸刃の剣であり、良いことばかりでなく、悪いことも引き寄せることがあります。県外の悪質なコンサルタント会社に乗せられて、不正受給の片棒を担がされたという話もあります。助成金を申請できるということは労務管理がしっかりした会社であるということが大前提です。その上で何のために申請するかを明確にし、その上で情報集など事前の準備をちゃんとして申請してください。

・どんな会社がもらえるのか?
 厚労省系の助成金を受給できる会社にはいくつかの条件があります。
 雇用保険の適用事業所であること。従業員がいても雇用保険に入っていないと対象外になります。助成金の財源は労働保険料の一部ですから、保険料の滞納がないことも大きな条件です。
 何より大切なのは就業規則、労働者名簿、雇用契約書など法律で作成が義務付けられた書類や帳簿がそろっていることです。「従業員の雇用保険や社会保険にきちんと入っている」「給与計算をきちんと行っている」…これらがちゃんとそろえられるということが「ちゃんとした会社である」という証明になるわけです。
 そのほか、助成金をもらうときに注意するのは、申請期限内に申請すること。新しい助成金に関する情報などは4月、10月に出ることが多いですが、必要だと思う助成金情報は絶えずチェックして情報収集する必要があります。同じ助成金でも、支給額や要件、書類の内容が変わることもあります。時には窓口の担当者によって左右されることもあります。担当が変わったばかりで不慣れな人だと、申請を出しても要領を得なくて時間がかかったり、受給できなかったりすることもあります。その点、私は労働局にいたこともあるので、誰に話を持っていけばいいか分かっているので、相談してください。
 ハローワークを通じて雇わないと対象にならない助成金もあります。労働局の調査が入ることもあります。会計検査員の検査の対象になって関係書類の提出を求められることもあります。何より大切なのは、何のために助成金を申請するか、方向性をしっかり持つことです。目先の助成金のために会社の方針を変えてしまうと、かえって余計な経費がかかって経営を圧迫することもあるので注意してください。

・今年度の助成金の傾向
 政府の施策や経済状況によって、助成金の出る傾向は変わります。今は「一億総活躍社会」や「女性の活躍社会」などが謳われていますからそれに関する助成金は出やすい傾向があります。いくつかの系統に分けて助成金の傾向を私なりに分析して紹介します。
 スタッフを採用したい採用系の助成金には「トライアル雇用奨励金」「特定求職者雇用開発助成金」「キャリアアップ助成金」などがあります。これらは使いやすく、額も良いでおススメです。
 スタッフに研修や教育をしたい教育系の助成金には「キャリア形成促進助成金」(正社員向け)「キャリアアップ助成金」(非正規社員向け)などがあります。こちらも使いやすい反面、使い方の規定が細かく決まっていて必要な書類が多く、締め付けが厳しいので、おススメ度としては△でしょうか。
 スタッフの待遇を良くするための制度系には、「キャリア形成促進助成金」「職場定着支援助成金」があります。こちらは書類が面倒だったり、支給額が小さかったりしますが使いやすいことは使いやすいです。
 今私が一番おススメなのは、ワークライフバランス、女性活躍系の助成金です。今年度から始まった「両立支援等助成金」は手続きも比較的優しくて額も良いです。こちらは来る高齢化社会に向けて仕事と介護の両立を会社でサポートするための助成金です。
 「出生時両立支援助成金」は男性の育児休暇を取りやすくするための助成金です。女性従業員の妊娠が分かったら、「育休復帰支援プランコース」「代替要員確保コース」などが活用できます。中小企業は産休・育休の制度が整っていないところもあるので、制度をちゃんと利用するだけで助成が受けられます。ただしこれらも申請できる時期があるので注意してください。

・助成金を活用するためのコツ
 助成金がありながら活用できていない現状には3つの壁があると考えます。1つはそもそも助成金があることを「知らない」。実際、鹿児島市内でも助成金を活用している事業所は全体の5−10%です。2つ目は活用したいと思ってもすでに時期が過ぎていたりして、対象に「あてはまらない」。最後は手続きや書類などが「めんどうくさい」という壁です。
 これら3つの壁を乗り越えるためには、まずは積極的に情報収集をすること。だまっていても役所が教えてくれることはないので、自ら動いてください。どこまで自分でやるかの判断も大切です。面倒な手続きなどをするために我々専門の社労士がいます。社労士の報酬は成功報酬が一般的です。複雑で面倒な書類などを作成し申請した結果、不備があって受給できないこともあります。専門家を活用する方法も考えてみましょう。従業員とのコミュニケーションも大切です。
 その上で「経営の安定」「職場の改善・信頼関係の構築」という目的達成に向かって、上手に助成金を活用してみてはいかがでしょうか。